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(10.07.30)第42回全国保育団体合同研究集会 基調報告

8月7日〜9日に開催されます、第42回全国保育団体合同研究集会の基調報告をご紹介いたします。



合研集会の討論を豊かにすすめるために
第42回全国保育団体合同研究集会 基調報告(案)


常任実行委員会

はじめに

 私たちはすべての子どもたちの豊かな成長と発達をねがい、1969年以来42回を重ねる合研集会の開催を通して、互いに学び、交流しあいながら保育・子育てをすすめてきました。
 しかしこの20年近く、わが国の政府は、公的な負担を減らすために保育・福祉サービスを市場にゆだねるという、子ども不在の「改革」に明け暮れてきました。
 その間に、世界各国の政府は、どの子も保育が受けられるよう幼児教育・保育の無償化を進めるとともに、質の向上にも積極的に取り組んできました。そうした国々が政府の責任で保育を充実させようとしているのは、子育てや保育は人間が生きるうえで欠くことのできないものであり、かつその質を高めることによってはじめて、堅固で公平な社会を築くことができるという事実を踏まえているからです。
 しかしわが国の政府は、保育サービスの市場化や国と地方の関係見直し、補助金の出し方など、さまざまなやり方で予算を削減することに汲々としてきました。子育てや保育という仕事の値打ちを低く見ている、その基本のところを転換させないと、わが国の保育は、子どもたちに幸せな「今」と明るい「未来」を約束できるとはとうてい言いがたいものになってしまいます。
 こうした現状をつくりだした責任は、わが国の政府にあります。しかし、私たちもまた、保育にかかわる者としてこのような事態を打開し、どの子も自分が理解され大切にされていると実感できる保育を実現する責任を負っています。その責任はたいへん重いものですが、一方で、そこにこそ私たちの未来があるのではないでしょうか。


T.保育・子育ての現状

1.増える待機児童、広がる子育ての困難
 「保活」(認可保育所に入所するための保護者の活動)という言葉がテレビや雑誌をにぎわせています。希望しても保育所に入所できない待機児童の問題が深刻です。
 昨年3月から3回にわたって全国で行われた電話相談、保育所ホットラインには、保育所入所を求める切実で深刻な相談が多数よせられました。「育休(産休)が終わるのに保育所に入れない。このままでは仕事を辞めざるをえない」「シングルで生活がかかっているのに入所できない」「認可外施設や幼稚園の預かり保育は保育料が高くて預けられない」。認可保育所に入所できない悩みから、入所できても保育所まで電車で1時間かかる、きょうだい3人が別々の保育所に措置された、など仕事と子育ての両立への不安まで、どれも切実な内容でした。保育所に入れるかどうか不安のあまり精神を病んでしまう保護者、一時保育や認可外施設を転々とするために安定が得られない子ども・保育所入所が原因で子どもも大人も安心して暮らしていくことができない状況の広がりは深刻です。
 生活のために働かなければならない保護者にとって、仕事と子育ての両立を支える保育所は、なくてはならない施設になっています。
 しかし、こうした要求に保育所整備がおいつかず、都市部を中心に待機児童が急増する一方で、過疎地では少子化のために統廃合がすすみ、保育の場の確保が困難になっています。いまや日本のいたるところで子どもの育ちが脅かされているのです。
 そして、格差や貧困の広がりが、子育てや保育をさらに困難にしています。2009年10月、厚生労働省が公表した日本の子どもの貧困率(2007年)は14.2%でした。これは日本の子ども7人に1人が貧困状態にあることを意味しています。
 こうしたなかで、日本の保育制度は、不十分ながらも子育てのセーフティネットとしての機能を果たしてきました。家庭の状況にかかわらず、保育に欠ける子どもが保育所で保育を受けることを保障してきたからです。
 子どもたちは、幼いながらもさまざまな生活の困難を背負っています。保育所はそんな子どもたちを丸ごと受け止め、温かい給食と楽しい遊び、生活を通しての学びとゆったりとした休息によって、子どもが子どもらしくいられることを精いっぱい保障しようとしています。

2.保育所・幼稚園と保育者の状況
 近年、保育所数・入所児童数ともに増加傾向が続いています。
 しかし、公立保育所の統廃合、民間委託などがすすむなかで公立保育所は年々減り続け、08年度に私立保育所と公立保育所の数が逆転し、その差が開いています(09年度 公立1万1008か所(48%)、私立1万1917か所(52%))。公立保育所運営費の一般財源化(2004)に加え、地方自治体の財政難が公立保育所の廃止・民営化、統廃合の動きを加速し、国・自治体の保育実施責任を後退させています。
 この間、規制緩和と市場化を柱とする構造改革路線のもとで、増大する保育需要への対応は、認可保育所の整備ではなく、既存保育所への詰め込みや認可外保育施設などを受け皿としてすすめられてきました。保育事業への企業参入が容認されてから、営利企業の参入も目立っており、安上がりな女性労働力の確保、安上がりな保育の供給にあわせて、保育産業の育成をはかろうとする財界は、更なる規制緩和を求めています。
 こうしたなかで、認可保育所も含めて保育施設における死亡事故等が急増しているという報告もあり、保育環境の悪化が見過ごせない問題になっています。
 幼稚園の問題も深刻です。少子化がすすむなか、園児を獲得するために多様なメニューをそろえ、預かり保育をし、送迎バスで広範囲から園児を集めなければならないなど、経営のための負担が大きくなっており、それはそのまま教師の労働条件や処遇に反映しています。
 一方、人口減少地域では、公立幼稚園のみならず公立保育所の統廃合がすすみ、公立幼稚園と保育所の認定こども園化をすすめる自治体も増えています。
 職員の状況を見ると、保育現場では、公立・私立ともに、非正規雇用の保育士が増えています。財政難を理由に人件費を抑え、夜間・延長保育などの事業拡大にあたっても充分な財政措置がとられないなかで、現場で働く保育士にそのしわ寄せがきています。
 賃金をはじめ労働条件が低いまま抑えられ、不安定な非正規雇用にもかかわらず、担任を持ったり保育計画を作成するなど、正規と同様の責任を負わされている実態もあります。一方で、他職種と比べても決して充分な条件とはいえない正規雇用の保育士に責任が集中し、精神的にも身体的にも疲労が蓄積するような状況にある人も少なくありません。
 全国福祉保育労働組合が集めた「保育職場の声」には「日誌、ノート、おたより、週案など山のような書類と、保護者への対応など、ほとんど勤務時間外に正規保育士が行う。過酷な労働なので身体を壊したり、うつ病になる人が多い」「非正規だが正規と同じ仕事内容で賃金は安い。将来が不安」など深刻な実態が寄せられています。
 保育に従事する職員が、不安定な雇用や、安心して働けないような状況のもとでは子どもたちの成長・発達を保障していくことはできません。職員が安心して働き続けられるような条件整備に加え、生き生きと楽しく日々の実践の向上をはかれるような研修や職員会議等の保障など、職場環境の整備が重要になっています。
 いま、格差と貧困の広がり、地域社会の結びつきが弱まるなど社会が変化するなかで、子育て・保育における保育所や幼稚園などの果たす役割はますます重要になっています。保育所・幼稚園は乳幼児の発達を保障するだけでなく、遊びや文化を伝承し、家庭における子育て支援だけでなく、過疎の地域においては地域の経済や生活文化を支える中核的な公共施設としての役割も果たすことが期待されています。こうした期待に応えるために保育・幼児教育施設はどうあるべきか、国民の共通理解を広げていくことが必要になっています。


U.保育をめぐる情勢 ― 政策の特徴と制度改革論議をみる視点

1.保育制度改革の方向と問題点
 保育所・幼稚園の果たす役割がいっそう重要になっているにもかかわらず、これらを充実するのではなく、逆行するような動きがすすんでいます。政府は2010年1月に「子ども・子育て新システム検討会議」を立ち上げ、関係者との充分な議論もせずに、6月25日、子ども・子育てを社会全体で支援する一元的な制度を構築するとして、制度改革のアウトラインを示した「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」(以下、新システム)を公表しました。
 新システムを理解するためには、同時期に公表された「産業構造ビジョン2010」(以下、ビジョン2010)をベースにした「新成長戦略」(6.18閣議決定)と、政府がすすめる地域主権改革の基本方針「地域主権戦略大綱」(6.22閣議決定)が求める保育制度改革の方向との関連をみることが必要です。そのことで保育制度改革の真のねらいを明確にすることができるからです。

@「新成長戦略」と「地域主権戦略大綱」が求める保育制度
 「ビジョン2010」は、経済成長戦略の5大分野の一つに「医療・介護・健康・子育てサービス」を位置づけ、保育をサービス産業化し、自動車産業のように新たな経済成長のエンジンとして育成することを構想しています。この構想を受けて「新成長戦略」は、「雇用・人材戦略」として幼保一体化、子ども家庭省の創設、企業参入の拡大のための環境整備などを提案し、その具体化を「子ども・子育て新システム検討会議」にゆだねています。
 「新成長戦略」において産業として位置づけられた保育で「稼ぐ」ためには、保育を市場化する必要があります。市場化には保育事業者を縛る規制の緩和が不可欠です。
 「地域主権戦略大綱」は国の「義務付け・枠付け」を見直し、市町村の条例にゆだねるための規制緩和を全面的に展開します。保育所については国の責任を後退させる最低基準の廃止・地方条例化がすすめられようとしています。地方条例化にあたって、人権に関わる職員配置などは「従うべき基準」として遵守事項とされましたが、避難路など安全に関する部分は自治体の裁量にまかされる「参酌基準」とされており、人権の保障、子どもの生命の安全が危ういものとなっています。
 保育所給食についても小泉政権が実施してきた構造改革特区の取り組みを引き継ぎ、かつ、十分な検証をすることなく、公私立ともに3歳以上児の保育所給食外部搬入の全国展開を認めてしまいました。地域主権により市町村の裁量を拡大するという理由でナショナルミニマムが解体されると、保育は市町村まかせになり、保育所の地域格差が拡大することになります。
 
A新システムの内容と問題点
 新システムとはどのようなものでしょうか。特徴と問題点は以下の通りです。

  1.  利用者(保護者)と事業者(保育所)が直接利用契約をします。市町村は直接保育を提供する責任がなくなり、利用者の認定を行い補助金を交付するだけになります。


  2.  市町村の認定によって保育サービスの利用上限が決められます。認定に応じて補助金が給付されますが、上限以上の利用は全額自己負担となります。


  3.  保育料は応能負担から応益負担に変わり、保育所の利用時間と提供される保育内容に応じて負担が増えます。低所得の家庭ほどその負担が重くのしかかります。所得によって受けられる保育に格差が生じ、低所得世帯ほど利用抑制がされやすく、その子どもに必要とされる保育が保障されないこともでてくるでしょう。


  4.  保育の費用は公定価格として定められます。公定価格は補助金+保育料で構成されますが、公定価格(補助金+保育料)は家庭的保育、小規模サービス、短時間利用、長時間利用、早朝・夜間保育などで異なります。保育所は、保護者(子ども)が実際に利用した時間と内容に応じて支払った保育料で運営されることとなり、保育所運営は不安定になります。職員も非正規化がすすみます。


  5.  企業とのイコールフッティングが強調されています。社会福祉法人への施設整備費補助の廃止、補助金の使途制限の撤廃、配当が可能となる会計システムなど企業が参入できる環境整備がすすめられます。企業を保育分野に進出させ、保育を成長産業に育てるための保育制度改革であり、児童福祉の観点が欠落しています。子どものための保育制度改革とはいえません。


  6.  幼稚園と保育所、認定こども園を「こども園」に一体化して幼保一体化をすすめるとしています。財源は、子育て関連の国庫負担金・補助金・事業主等からの拠出金を「子ども・子育て勘定(仮称)」に一本化し、一括交付金として市町村に交付する仕組みです。しかし経団連などが事業主の拠出に難色を示すなど、財源が拡大される保障はありません。
      また、交付金をどのように使うかは市町村の判断によるため、保育所の代替としての家庭的保育や認可外保育施設への補助金として使われることもあるでしょう。
      要するに財源を一元化し、保育内容は保育所保育指針と幼稚園教育要領を一体化した「こども指針」によって、子ども家庭省が所管する制度構想ですが、私立幼稚園を待機児解消に活用しようというねらいがあることも忘れてはなりません。


  7.  学童保育も含めてすべての子育て支援サービスに利用者負担が発生する可能性があります。

2.新システム=制度改革に対する運動で大切にすること
 政府の保育制度改革論議に対し、私たちは以下の点を大切にして運動をすすめましょう。

  1. 保育における公的責任を明確にする
     新システムは、国や自治体の公的責任があいまいです。児童福祉法は第2条で「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と公的責任の所在を明記しています。また、児童福祉法第24条は市町村に保育に欠ける子どもへの保育提供を義務づけています。保育制度改革でも国や自治体の責任を明確にさせましょう。


  2. すべての子どもに保育を平等に保障するナショナルミニマムを確保する
     保育所のナショナルミニマム(最低基準)を地方条例化し最低基準そのものをなくそうとしています。日本のどの地域においても、すべての子どもに同一条件で保育を保障するために「最低基準」の堅持と向上が求められています。最低基準の抜本的な改善と国による保障の仕組みをつくりましょう。
     最低基準の地方条例化は、保育所運営費(児童福祉法では、運営費は最低基準を維持する費用です)の根拠を崩し、市町村の保育実施の義務を明記した児童福祉法第24条の「改正」に連動します。公的保育制度を維持・向上させるためには、最低基準の廃止・地方条例化を許してはなりません。


  3. 地域の子育て基盤の充実を図る
     都市部における待機児童の解消は緊急の課題です。市町村と企業まかせの待機児童解消ではなく、国の責任で緊急保育所整備3か年計画などを策定し、予算化すべきです。また地方では、少子化と財政危機から保育所や幼稚園の統廃合がすすみ、地域の子育ての基盤がくずされています。子育てしやすい地域づくりのために住民が知恵と力を出して子育ての基盤づくりに取り組みましょう。子どものための施設・環境整備を民間や企業にまかせれば、環境の悪化は避けられません。


  4. 拙速な幼保一体化は避け、国民の十分な議論を保障する
     政府は保育制度改革の中心に幼保一体化を位置づけていますが、関係者からは拙速すぎるとの意見が出されています。幼保一体化または一元化は充分な議論をへてすすめるべきであり、保育所、幼稚園、保護者、幼児教育の研究者など関係者を中心に政策方針を検討・決定できる場を設置し、公開の議論をふまえて結論を得るべきです。

 新システムを立ち上げる本当の目的は、保育の産業化・市場化です。しかし、保育や福祉のように人件費比率が高い事業でもうけるためには、人件費抑制が不可欠であり、正規より非正規、非正規より派遣など規制緩和を最大限活用した雇用形態の多様化が必要となります。保育の共同や保育経験の蓄積がむずかしくなり、保育の質の低下を招きます。保育士のワーキングプア化もすすむでしょう。経営者も常に競争にさらされ、不安ななかでの保育園経営となり、保育理念に基づいた安定的な保育園運営はむずかしくなるでしょう。
 また、保育の産業化・市場化で保育の商品化がすすめられてしまいます。そうなれば保育の購入者である保護者の利益が重視されるため、保育所と保護者、保護者同士の協力、共同の関係を築くことがむずかしくなります。子育て・保育は子どもと保護者、保育所が支え合い、共同で行う事業です。私たちは保育の商品化に対して保育所を中心に子育ての共同化をすすめましょう。
 新システムは、支え合いと助け合い、権利保障が基本の、福祉としての保育のあり方を根底から覆すものであり、子どもの保育を受ける権利をないがしろにするものです。政府のめざす保育制度改革を阻止することが子どもを守ることにつながります。
 子どもをもうけの対象とする保育の産業化ではなく、私たちは保育事業を子どもの幸せをつくりだす事業として発展させましょう。
 子どもの幸せな笑顔が見える社会は、すべての人にとって生きやすい社会です。子どもをもうけの対象にしたり、子どもを何かのための投資と考えたりする社会は不健全な社会です。子どもが今を充実して生きるにあたいする社会をつくることは大人の責任です。


V.私たちがめざす子育て・保育と保育運動の課題

1.私たちがめざす子育て・保育
 そもそも私たちの保育運動は、「必要なものは自分たちでつくる」精神にあふれたものでした。今日の公的な保育制度は、「ポストの数ほど保育所を」という合言葉で繰り広げられた保育所づくり運動によって発展してきたものです。この運動は、地域や家庭の要求に応えて、地域の人たちと手をつないで保育の場を創りながら、行政を動かし公的な保育制度を拡充させてきました。
 今、公的保育制度は重大な局面にあります。こうした時だからこそ、「自分たちの手で創る」という原点に立って、私たちがめざしている保育とはどのようなものかを、改めて確かめ合いたいと思います。

@質のよい保育をすべての子どもたちに保障するために
 私たちがめざす保育の第一は、「質のよい保育を、すべての子どもたちに保障する」ことができる保育制度の実現です。
 OECDはこの6月、日本政府の子ども・子育て政策の抜本的な充実を求めて申し入れを行いました。そのなかで、日本の保育とその支援策の現状が他国にくらべてきわめて立ち遅れていることを次のように指摘しています。
 「健全な人生のスタートをすべての子どもに与えることは、長期的な経済的持続可能性の促進と、より堅固でかつ公平な社会の構築のための基本的要素である。日本においては、3歳児の約70%及び5歳児の96%が幼児教育や保育を受けているが、3歳以下の子どもは28%しか幼児教育・保育を受けていない」「日本では、5歳児一人当たり、勤労年齢の世帯の所得の中間値の7%に相当する額しか、幼児教育・保育に公的支出が割り当てられていない。これは最下位の韓国に次ぎ、OECD加盟国のうち最低水準にある」「女性がもつスキルと経験を生かして働き、女性が仕事と家庭を両立させられるようにすることにより、経済の生産性と競争力を向上できる。にもかかわらず、日本では、3歳児から5歳児までの子どもを持つ母親の半分しか雇用されていない。この割合は、メキシコとトルコを除き、OECD加盟国で最低水準である」「日本では、質の高い幼児教育及び保育サービスが不足し、またコストが高いため、女性は働く選択をしない。また、低賃金のパートタイマー雇用で働いている。日本の幼児教育・保育サービスは、必ずしも親のニーズに合う柔軟な時間帯で提供されておらず、待機児童問題は社会全体の課題である」。
 こうした指摘に明らかなように、今日の待機児童問題の原因は公的責任を果たしてこなかった政府の後ろ向きの姿勢にあります。また、保育者一人当たりの受け持ち人数一つとっても、日本の保育条件は世界的に見てかなり低位な状態にあり、そのコストダウンをうんぬんするような現状ではまったくないことは明らかです。さらに、世界的に見ると保育料の無償化が大きな流れです。
 企業参入頼みのわが国の政府の保育政策は根本的に誤っているものです。私たちの社会の未来を危うくするものです。公的な責任で保育の拡充を進めることが世界の大勢です。すべての子どもたちに無償で質のいい保育が保障される制度を実現すること、これは私たちの願いであるだけでなく、私たちに課せられている責任というべきものです。

A子どもたちの日々の幸せを保障するために
 私たちがめざす二つ目は、今を生きる子どもたちの毎日の幸せを保障する保育です。
 どの子も、安心、安全に、その生命を輝かせて毎日を過ごせること、それは私たち皆の願いです。おいしく食べること、ゆったり寝ること、楽しく遊ぶこと、そして大人から理解されていると実感できることは、人間なら誰もが願う「幸せ」です。子どもたち一人ひとりの要求に応えること、それは決して譲ることのできない保育の大原則です。
 ですから、自園で調理しておいしく食べるというこれまでのルールを破って、外部での調理や搬入を政府が認めるというのは、こういう「毎日の幸せ」を著しく軽視したものだと言わざるを得ません。子どもたちの「毎日の幸せ」を軽視するようなものは、どんな理由をつけたとしても認めることはできません。
 他方で「保育の質」という言葉がよく使われ、政府は保育の質の維持・向上が大事だと言います。近年の研究では保育の質は、「何かができるようになった」という「結果」で測るものではないと強調されるようになっています。保育の質は、毎日毎日の「プロセスの質」、具体的に言えば子どもたちが経験する生活の質そのものであると捉えられるようになっているのです。「経験の質」というのは、たとえば子どもたちが毎日を「心地よいと感じているか」とか、「何かに熱中できているか」ということです。心地よさを経験した子どもたちは心身ともに健康に生きるとはどういうことかを学び、何かにじっくり取り組み満足するまで熱中する生活を経験することによって、子どもたちの中に確かな探究心と意欲が育つといわれています。
 子どもたちは幼いときからテストによって、その成長が「評価」される、目先の成長やできばえによって保育の成果が「評価」される、そうしたことが増えている今の社会のなかで、私たちは、日々安心して、安全にくらし、興味あるものに熱中し、周囲の友だちや大人に理解されている実感が持てるなど、子どもたち一人ひとりが「幸せと実感できる毎日」を守らなくてはなりません。そのために必要な保育条件の改善を求めていかなくてはなりません。

B未来を担う自主的精神に満ちた子どもを育てるために
 三つ目は、私たちはどのような子どもたちを育てたいのか、すなわちめざす子ども像と保育の目標です。
 私たちが日々行っている保育の実践・研究・運動は、いうまでもなく未来社会の担い手である子どもたちを立派な人間に育てることをめざすものです。未来を作る仕事といわれるゆえんがそこにあります。
 安倍内閣(2006年)のときに、「学力向上と道徳教育の強化」のためと称して教育基本法が改正されました。学力向上のための全国一斉学力テストは、テストで子どもの成長を評価し、標準に達しているかいないかということへの執着と不安をこれまでより幾倍も高めました。
 私たちは、学力とは何のために必要なものなのか、その根本に立ち返って問う必要があります。戦後制定された教育基本法には、「平和で文化的な社会を築くには、自主的な精神にあふれた人間を育てなくてはならない」という趣旨がはっきりと書いてありました。平和な世界への希求から生まれた私たちの保育運動は、自主的精神にあふれた子どもたちを育てなくてはなりません。学ぶ力というのは、そのために必要な力です。
 人権、平和、平等が実現される社会の担い手を育てるというのは、自主的な精神にあふれた子どもに育てるということではないでしょうか。そうした点において、私たちがめざす人間像は共通していると言っていいのではないでしょうか。

C専門性の向上と保育条件の改善と
 四つ目は、保育・子育てにかかわる大人自身の課題です。
 自主的な精神にあふれる子どもを育てるためには、私たち大人自身が自主的な精神を発揮することが必要です。保育の場において、一人ひとりの自主的な創意がどれだけ発揮され、尊重されているでしょうか。保育者の専門性向上が叫ばれていますが、その中心には一人ひとりの自主性の発揮がなくてはならないでしょう。
 保育の専門性の中核には、生きた子ども一人ひとりに寄り添って、健やかな生活と成長を作り出すという、不確実なものだからこその創造性というものがなくてはなりません。一人ひとりの保育者が主人公になって、子どもとともに保育のあり方を自主的、能動的に探究すること、それが専門性の向上のあらゆる取り組みの中心になくてはなりません。
 と同時に、専門性の確立のためには、保育条件の抜本的な改善がどうしても必要です。社会からの要求の高まりと、社会的背景の複雑さのなかで、能動的で創造的な探究者としての保育者の専門性を高めていくことと、保育条件の抜本的改善に粘り強く取り組むこと、その二つを切り離さずに進めていくことが、私たちの課題です。

2.子育て・保育は平和であってこそ
 よりよい保育がしたい、子育て・保育は平和であってこそ、と41年前の夏、合研集会は始まりました。今年、合研集会は41年の歴史をふまえて、第42回集会を岩手で開催します。
 世界では核兵器の廃絶が課題となり、日本では沖縄の米軍基地の移設が大きな問題になっている今、あらためて合研集会開催時の思いを振り返り、未来を展望しながら広い視野で保育・子育ての問題を考えることが課題になっています。
 第42回集会では、これまで合研集会で育んできたものをさらに豊かにするために、子どもを真ん中に、保護者も保育者も、子どもにかかわるすべての人たちが「子どもに最善のものを」の一致点で話し合い、考え合い、交流を深めましょう。
 保育制度改革が、子ども不在のなかですすめられようとしている現状に対し、私たちがめざす保育・子育てを確かめ合い、その実現のためにできること、しなければならないことを明らかにしましょう。
 子どもの権利最優先、保護者や保育者の権利保障の立場に立って、子育て・保育の新たな共同を創り出す一歩を、このみちのくの地、岩手から踏み出しましょう。
 合研集会から生まれた、保育者と父母を結ぶ雑誌『ちいさいなかま』を仲立ちにしながら、それぞれの地域でよりよい保育をめざすなかまの輪を広げ、未来を切り拓いていきましょう。


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