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【17.02.20】保育所保育指針・幼稚園教育要領等の改定にあたって(談話)
2017年2月20日 |
保育所保育指針・幼稚園教育要領等の改定にあたって(談話)
子どもや保護者、保育現場に寄りそうことこそ
─指針等による内容の押しつけを懸念する─ |
全国保育団体連絡会会長 大宮 勇雄 |
2018年度から実施予定の「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」の改定案が発表されました。 これらの文書は共通して、「国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた国民を育成する」ことが教育の最終目的であり、それを具体化した「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を全幼児教育施設が共有すべき最上位の目標として掲げ、それを達成するために各園は保育計画を策定し、評価し、改善しなければならないと述べています。政府の意向にそって日々の「教育」を行うべしという、きわめて政府中心主義の硬直した枠を現場にかぶせようとするところに最大の特徴があります。 ここには、教育は基本的人権を尊重しつつなされる、個々人の自己実現を支援する営みであるという理念も、遊びと学びは子どもの権利であり政府はその豊かで多様な機会を提供する責任を負っているという見解も、専門家である教師・保育者の自主的判断によってなされるのがもっとも望ましい教育であるという考え方も見えません。
この政府中心主義の教育観のもっとも具体的な表れが、「国旗・国歌」に関する内容の新設です。今回示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」では、「保育所内外の行事において国旗に親しむ」などが盛り込まれています。 さらに、今回の改定案には盛り込まれていませんが、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」に関する「小項目」※(その具体的な姿を示すものとして40数項目がリストアップされ、今後官製の解説書や研修でそれに向けての実践が求められる恐れが大きいもの)には、「国旗が掲揚される様々な行事への参加や、運動会などの行事において自分で国旗を作ったりして日常生活の中で国旗に接し親しみを感じることにより、日本の国旗や国際理解への意識や思いが芽生えるようになる」という項目があります。万が一、このような項目に基づいて「保育を振り返りなさい、子ども一人ひとりの育ちを評価しなさい」ということになったら、「国旗掲揚をしているか」「国歌斉唱をしているか」が外部から問題にされ、現場に圧力がかけられる恐れがあります。 国旗・国歌についての賛否はともあれ、まだ「国」とは何かを知らない子どもたちに「国」への従順を迫り評価するというのでは、自分で考え自分で判断する主体的な子どもは育ちません。どうみても「幼児期の終わりまでに必要な育ち」とは思えませんし、その後の子どもの人生を豊かにするものとも考えられません。
今回の改定案はこの項目に限らず、子どもや保育現場に対して、政府が期待する方向や、法律で定めた「教育」目標に向けて、「育ちなさい・育てなさい」と指示・説諭する調子がこれまでになく強まりました。今日の厳しい現実の中で、保護者も保育者も苦悩しつつ、懸命に子どもたちを守り育てようと努力しています。そうした子育て・保育に対するリアルな認識や、努力に寄りそう温かさに乏しいように思われます。 日々の生活が、安心して過ごせ、夢中になれることがあって、わがままやいざこざを繰り返しながら温かな仲間の一員なんだと実感できる、そうした「幸せな日々」の中にこそ、本当の教育はあります。そして、「幸せな日々」は平和で格差のない社会なくして守り築くことはできません。 私たちの先輩たちは、二度と戦争はしない、そのためにはお上の言いなりになる子どもではなく、自分で考え、自分で判断し、自分の意見をしっかりもった子どもを育てなくてはならないという理念を、憲法・教育基本法の中に明記させました。 その精神を受け継ぎ、「幸せな日々を築く」こと─「子どもらしい子ども時代」を守り、学び遊ぶ権利の主体として子どもを育むこと─が、保育の一番大事な目標でなくてはならないということを、私たちは確かめ合い、そのことを社会全体の世論にしていきましょう。
中央教育審議会教育課程部会(第97回 2016(平成28)年7月19日)資料 「幼児教育部会における取りまとめ(案)」 月刊『保育情報』2016年10月号掲載
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