全保連 全国保育団体連絡会 お問い合せはこちらから (平日午前10時〜午後5時まで)TEL:03-3339-3901/FAX:03-3310-2535
HOME 出版案内 保育研究所
NEWS(全保連の活動) 研修・セミナー 合 研 全保連の紹介
見解・声明

<< 「見解・声明」の目次に戻る印刷に適したページ >>

【16.03.31】<見解>保育士の処遇改善は保育問題解決のための最優先課題

<見解>
保育士の処遇改善は保育問題解決のための最優先課題

― 保育士確保と待機児童解消の実現のために ―

2016年3月29日
全国保育団体連絡会

 「保育園落ちたの私だ!」「保育士辞めたの私だ!」。
 保護者や保育者の悲痛な叫びが、全国各地に広がっています。国はようやく待機児童解消や保育士の処遇改善のために重い腰をあげようとしていますが、これまでの国の施策は規制緩和や基準の弾力化が中心であり、その延長線上では問題の解決がはかれないことは明らかです。何よりこうした施策が幼い子どもの生命と安全を脅かすものになることを危惧します。
 幼い子どもの成長・発達と子育て家庭を支える「保育」という重要な仕事を、専門職である保育士が誇りをもってすすめるためには、保育士の処遇改善など抜本的な見直しが必要です。これなくして保育士確保と待機児童の解消はありえません。ここでは、保育士の処遇改善の問題について、いま必要なことを明らかにするものです(待機児童解消については別に公表した『待機児童解消のために必要なこと<論点整理>』をご参照ください)。

1.なぜ保育士の処遇が劣悪なのか

@ 重い責任に見合わない低賃金
 潜在保育士が保育士として働かない理由に「給与の低さ」があげられています。2015年度の公定価格(国が定める保育の費用)では、保育士の賃金(本俸基準額)を月19万9920円としていますが、非常に不十分なものです(1)。実際の保育の現場では、国基準(児童福祉施設の設備及び運営に関する基準、以下国の配置基準)以上に保育士を配置しています。多くの保育士が働けば、1人あたりの賃金は国の見積もりより少なくなってしまいます。常勤者でも手取り12万円とか15万円などの実態が報告されているのはそのためです。
 国の配置基準以上に保育士を配置しなければならない要因は、国の配置基準が国際的にも非常に貧しいという制度上の問題にあります。たとえば、4、5歳児は子ども30人に保育士1人の配置となっていますが(2)、それでは1人ひとりの子どもにていねいにかかわることができないので、多くの保育所では国の配置基準以上に保育士を配置しているのが現状です。
 また、保育所では10〜12時間の開所が一般的(3)ですが、国の配置基準はこのような長時間保育に対応した基準になっていません。開所時間や子どもの在園時間が年々長時間化するなかで、子どもの人数にあわせて必要な保育士を配置せざるをえないのです(4)

A きびしい仕事、労働条件
 労働条件の厳しさも保育士不足の要因です。保育士は、幼い子どもたちの生命を守り育てると同時に、保護者支援、地域支援等も行う専門職であり、日々の保育にあたっては高い知見と技術、職員間の共同が求められますが、それにふさわしい労働条件が保障されているとはいえません。国の配置基準の貧しさから、現状では保育士は1日の勤務時間8時間すべてを子どもの保育にあたらなければならなくなっています。たとえば、子どものお昼寝中に子どもたちの安全を確保しながら連絡帳を書くようなことが日常化しているため、休憩時間も充分にとれていません。
 保育士の仕事には、子どもを保育する以外にも、教材の準備、保護者との連絡・相談、保育計画や記録の作成、地域や専門機関との連携などがあり、専門性を高めるために継続的な研修も欠かせません。しかし、現状では、勤務時間内にこれらの時間をとることはできず、長時間労働やサービス残業、持ち帰り残業などをせざるをえないのが実態です(5)。職員間で必要な打ち合わせ会議をする時間も確保されていません。これらは、これまで保育士の献身的な努力に頼ってきましたが、それも限界にきています。
 また、保育所の開園日数の多さにも注目する必要があります。国は、年間約300日、土曜日も含め週6日の開所を保育所に求めています。日曜日に行事や研修を行っても代休をとることがむずかしく、新年度の準備も子どもの保育を行いながらになります。これは、土曜休園があたりまえで、学期ごとに長期・短期の休園がある幼稚園と比べて大きな違いといえます。こうしたことも、保育士の負担となっています。
 保育所は、保護者の就労支援のために必要不可欠な施設として重要な役割を果たしています。しかし、そこで働く保育士をはじめとする職員の労働条件はそれに見合ったものになっていません。
 今、多くの職場で当たり前になりつつあり、幼稚園でも実現している、完全週休二日制を含め、保育所職員のワークライフバランスを確立することが急務であり、そのためには職員配置基準の改善による保育士の大幅増員が必要です。

2.保育士の処遇改善のための課題

@ 職員配置基準(最低基準)の抜本的な改善と賃金単価の改善が処遇改善のカギ
 こうした現状をふまえ、以下の改善が早急に必要です。

  • 子どもの発達を保障し、開所時間、開所日数、子どもの数にふさわしい保育士の配置ができるよう、国の配置基準の抜本的改善
  • 勤続11年以降は見込まれていない昇給財源の確保など賃金単価の改善
  • 全産業の平均並の賃金を国として保障する(10万円アップ)

 さらに、保育士が保育の仕事にやりがいを感じ、キャリアを積んで働き続けていくためには、研修や休暇の保障など、専門職にふさわしい労働条件と労働環境が不可欠です。保育士を大幅に増やし、賃金を上げ、働き続けるための条件整備をすすめなければ人材確保はできません。

A 公費が保育士の人件費に確実に使われるためのルールの確立
 1人ひとりの保育士の賃金をあげるために、保育のために支出された公費が人件費として適切に支出されることも必要です。新制度では、保育に必要な費用(公定価格)を国が定め、公費負担分(給付)を保護者に支給(施設・事業者が代理受領)します。しかし、この給付の使途については制限がなく、事業者の裁量にまかされているため、公費が保育士の人件費等に充分に使われていないという問題が指摘されています(6)
 また、施設整備に対する補助金が不十分なため、新園建設をすすめる事業者は、人件費を削って自己資金を調達しなければならず、これも処遇の劣悪化の一因になっています。補助金を増やし、国や自治体の責任で施設整備をすすめることも課題です。
 これらをふまえ、保育の費用に含まれる人件費の単価を大幅に改善し、保育のために支出された公費は保育以外には使えないようルールを確立したうえでの、公費負担の増額が必要です。そのことが保護者負担を増やさずに保育士の処遇を改善することにつながります。

3.規制緩和策は保育士の処遇改善に逆行し、保育の質の低下に直結する

 保育士確保のためには、上記のような抜本的な対策が急務ですが、国は保育士の確保ができないことを理由に、国の配置基準を一部改正し、保育所等における必要な保育士の配置について弾力化方針を打ち出しました(7)。これは、国家資格である保育士資格がなくても資格者と「みなす」ことができるというもので、他の専門職では考えられないことです。
 これにより、保育所等に配置される保育士の資格者は、不十分な最低基準(8時間を基本)の配置基準上示される数であればよく、長時間開所する保育所では無資格者による保育が事実上認められたことになります。これは、これまで不十分ながらも職員配置基準の改善をすすめてきた保育施策を大きく後退させるものです。
 資格者の配置の弾力化、規制緩和は保育士の「専門性」を貶めるものであり、保育士の処遇改善に逆行するだけでなく、保育の質の低下に直結します。

4.保育士の処遇改善なくして保育士確保と待機児童の解消はできません
 国の責任で制度の抜本的な改善と財源の確保を

 保育士は足りないわけではありません。資格者はいるのに、劣悪な処遇のために職業として選ばれなくなっている、保育士として働き続けることに希望が持てなくなっているのです(8)。専門職としての保育士の仕事を位置付け直し、専門職にふさわしい処遇改善なくして、保育士確保も、待機児童の解消も、保育の質と量の拡充もありえません。規制緩和や賃金の4%アップなど小手先の改善では、保育現場にますます負担を押しつけることになり、現場の疲弊を招きます。
 格差と貧困の広がり、とりわけ子どもの貧困が問題になっているなか、福祉としての保育、権利としての保育がいっそう重要になっており、保育所の役割はますます大きくなっています。
 すべての子どもが平等に保育され、成長・発達する権利が保障されるためには、国と自治体の責任が必要不可欠です。国は保育を市町村まかせにせず、市町村が保育の実施責任を果たせるよう、保育制度の抜本的改善と財源確保をすすめてください。



  1.  保育士の平均賃金は全産業の平均賃金よりも12万円低いとされている。(厚生労働省『賃金構造統計基本調査』2014年版)
  2.  職員配置基準は児童福祉施設の設備及び運営の基準(厚生労働省令)に定められている。「保育士の数は、乳児おおむね3人につき1人以上、満1歳以上満3歳に満たない幼児おおむね6人に1人以上、満3歳以上満4歳に満たない幼児おおむね20人に1人以上」など、となっている。これをふまえて都道府県、政令・中核市が独自に条例で定めるが、国の基準が不十分なため、国基準以上の基準を定めている自治体が多い。
     また、諸外国と比べても基準の貧しさは明白で、たとえばフランスでは、職員一人あたりの児童数を、3〜5歳児については最大15名としている。
  3.  10時間以上開所している保育所は、全保育所の98.2%となっている。(厚生労働省『社会福祉施設等調査報告』2013年)
  4.  国は、11時間までの保育を認めている標準時間認定の子どもに対して、8時間までの保育を認める短時間認定の子どもより割高な保育費用を設定しているとしているが、まったく不十分な内容である。
  5.  同じ専門職である幼稚園教諭は、8時間勤務のうち、実際に子どもと接するのは4時間の教育時間であり、それ以外は会議や研修、教材準備等に充てることができるようになっている。
  6.  2013年8月に情報開示請求によって明らかにされた横浜市内の企業立保育所の運営費(2011年度)における人件費の割合は平均で53.2%(最低42.8%、最高62.5%)であった。一般的には保育所運営費における人件費の割合は70〜80%と言われている。
  7.  @保育所における保育士配置要件の弾力化、A幼稚園教諭、小学校教諭、養護教諭等の活用(保育士とみなす)、B最低基準を超える加配人員における保育士以外の配置要件の弾力化、など。2/3以上は保育士資格者であることが必要。
  8.  資格があっても保育士への就業を希望しない理由(複数回答)は、@賃金が希望と合わない(47.5%)、A責任の重さ・事故への不安(40.0%)、B自身の健康・体力への不安(39.1%)、休暇が少ない・休暇がとりにくい(37.0%)、などとなっている。(厚生労働省調査 2013年)

<< 「見解・声明」の目次に戻る印刷に適したページ >>

Copyright 2006 © Zenhoren All rights reserved.
ページの先頭へ ↑