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【11.12.12】福祉としての保育を歪め、保育制度を解体する新システムは撤回を

見解

福祉としての保育を歪め、保育制度を解体する新システムは撤回を


2011年12月12日
全国保育団体連絡会

1.児童福祉法24条を変え、市町村の保育実施義務をなくす新システム

 2010年から「子ども・子育て新システム」の検討をすすめてきた政府は、年内に成案をまとめるとして議論を急いでいます。この間の議論ではっきりしたことは、新システムがこれまで以上に市町村の役割や責任を強化するというようなものではなく、この間私たちが指摘してきたように、市町村の保育実施責任を規定した児童福祉法24条を改変し、市町村の保育実施義務をなくすなど、保育の法体系を解体するものであるということです。
 新システムは「子ども・子育て支援法(新システム法)」と「総合施設法」などを軸にするようですが、児童福祉法の改変により一般の保育に関する規定はすべて新システム法に移行することになります。児童福祉法には虐待児や障害児などへの対応が残るだけです。
 新システム法では、確実な給付の保障を行うとして保育所整備計画の策定や利用者支援などの新たな責務を市町村に課すとしていますが、市町村の保育実施義務がなければ、これらは実効性がなく機能しません。つまり、市町村の保育実施義務を前提としなければ、保育所整備計画策定の責務があるといっても計画を具体化する責任はなく、計画を作れば終わり、ということになってしまうのです。また、新システムでは、保護者は自力で保育所を探し、施設と直接契約しなければならず、市町村の保育実施義務がなくなれば、市町村に利用者支援の責務があるといっても最終的に保育の実施を確保する責任は、保護者と子どもに課せられることとなり、困難を抱える子どもや家庭が保育から排除される不安を拭えません。
 新システムの導入は、戦後長きにわたって築き上げてきた児童福祉法体系を破壊するに等しい暴挙です。保育を福祉からサービスに変え、子どもの権利を侵害する新システムを容認すれば将来に大きな禍根を残すことになります。こうした大改変を国民的論議を経ることなく強行しようとすることに対し、私たちは怒りをもって抗議するものです。

2.新システムの本質は変わらない

 当初政府は、現行制度では待機児童の解消ができないなど問題が多くあるとして、幼保一体化を含む制度・財源・給付を一元化し、子ども・子育てを社会全体で支援するための新たな制度=新システムを構築すると説明してきました。この間、以下について新たな提案がされていますが、それらは、問題ある新システムの本質を変えるものではありません。政府は新システムの問題点の指摘に対し、例外的な対応を提起して、取り繕おうとしてきましたが、このこと自体、新システム論議の整合性の無さを露呈しているといえるでしょう。
 @幼保一体化 幼稚園と保育所の垣根を取り払うとした幼保一体化案は、さまざまな施設が併存する現行制度以上に複雑なものになっており、とうてい一体化とはいえないものです。私立幼稚園に配慮して突如提案された私学助成存続も、これまでの提案内容と整合性がつかず、論議の拙速さを改めて浮き彫りにしたといえます。
 A利用者負担 利用に応じた定率負担(応益負担)が検討されていましたが、最終的には応能負担の体裁をとって、所得階層区分ごと・認定時間区分ごとに定額の負担を基本とすることが提案されました。このことは、幼い子どもの保育に応益負担を持ち込むことを批判してきた運動の成果として評価することができますが、応能負担は基本の保育部分に限られるということをおさえる必要があります。新システムでは、それ以外に実費徴収やオプション保育などの上乗せ徴収が認められ、さらに認定の保育時間を超えた利用分の徴収などの負担も強いられる恐れがあります。お金がなければ必要な保育が受けられなくなる応益負担のしくみであることに変わりはありません。
 B保育の措置 新たに児童福祉法に規定する措置による入所も、新システムのモデルである介護保険導入時に老人福祉法に規定された「福祉の措置」が実質的に機能していないことからみても、実効性がないことは明らかです。
 C企業参入 保育の市場化を促進するとして批判されてきた株式会社等の保育事業への参入・撤退についても、事業費の繰り入れや剰余金の配当に関して「こども園」については規制しないとし、保育で儲けることを可能にしてしまいました。特に撤退規制は実効性の乏しいものであり、事業者の自由意志で撤退が可能であることから、保育の質の低下や、地域によっては保育難民の発生が危惧されます。
 D所管 一元化するとしていた所管も、総合施設の所管は内閣府ですが、一方で厚生労働省、文部科学省との共管にするという複雑なしくみになります。

3.子どもの権利保障のための保育制度とは

 新システムに貫かれているのは、子どもの視点よりも経済的な効率を優先させる考え方です。待機児童解消のための具体策については、認可保育所を増やすのではなく、規制を緩和し保育条件を切り下げ、安上がり保育の量的拡大のみが示されるだけです。さらに一体化施設である「総合施設」には3歳未満児の保育を義務づけておらず、待機児童対策としては全く期待できません。この間厚生労働官僚でさえ、「新システムで待機児童は解消できない」と発言する状況にあり、保護者の「安心できる保育園に預けたい」という願いに応えるものとはいえません。
 さらに、新システム導入の前提であるはずの財源問題については全く不透明です。政府が財源としてあてにしているのは消費税増税ですが、増税反対論も根強く、その時期や規模についても確定しているわけではありません。さらに「社会保障と税の一体改革」において社会保障費総額の抑制を志向している政府の姿勢をふまえれば、新システム導入による財源の確保・拡大は空約束にすぎないとみるべきです。
 何より新システムは、介護保険同様認定基準や公定価格を政府が左右して予算を自由に切りつめることを容易にする仕組みであることを忘れてはなりません。また、新システムには多大な事務経費がかかることから、もし仮に財源の確保・拡大が一時的になされたとしても、それは保育の質や量の充実には使われず、もっぱら新たに生じる膨大な事務経費に使われることも十分に考えられます。
 児童福祉法に基づく現行保育制度には、子どもの最善の利益を守るために市町村の保育実施責任が明確に位置付けられています。深刻化している待機児童問題も、現行制度のもとで公費を投入して保育所増設をはかれば、質を維持しながらより確実に解消することができます。そのために最低限確保すべき国費の額は、国家予算額の0.1%程度にしかすぎず、現時点でも十分調達可能な額です。
 保育を受ける権利は、保育を必要とするすべての子どもたちに平等に保障されるべきであり、家庭の経済状況や市町村の財政状況によって、受けられる保育に格差が持ち込まれるようなことがあってはなりません。子どもの貧困や子育ての困難が広がり、より深刻になっている状況をふまえれば、新システムを導入するのではなく、国と自治体の責任を確保しながら、保育所、幼稚園、学童保育、子育て支援の制度を拡充すべきです。
 しかし政府は、これだけの問題が山積しているにもかかわらず、「社会保障と税の一体改革」のトップに「子ども・子育て新システムの創設」を位置付け、2012年の通常国会へ関連法案を提出するとしています。
 事態は急を要しています。しかし、私たちの運動によって、不充分にせよ新システムに賛意を示していた保育団体の中からも異論の声があがりはじめました。新システムを撤回させることができる可能性も、より大きくなっています。自ら声をあげることができない幼い子どもたちにかわって、私たちは、政府が新システムを撤回し、国と自治体が責任を負う現行保育制度を基盤に、必要な財源を保障して保育制度の改善・拡充をすることを強く求めます。


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