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【09.03.11】厚生労働省・少子化対策特別部会「第1次報告」に対する全保連の見解
子ども・保護者・保育所に負担を押しつける保育制度「改革」ではなく 国と自治体の公的責任による待機児解消こそ急務
厚生労働省・少子化対策特別部会「第1次報告」に対する全保連の見解
関係者の合意を得たとは言い難い「第1次報告」
2月24日、厚生労働省・社会保障審議会少子化対策特別部会(以下、特別部会)は、「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて」と題する「第1次報告」をまとめ、市町村が直接保育を提供(保育の現物給付)する責任をなくし、直接契約、直接補助方式を導入する公的保育制度解体案とも言える「今後の保育制度の姿−新たな保育の仕組み−」(以下、「新制度」)を基本に今後、制度の詳細設計に入ることを提案しました。 特別部会は、昨年9月から13回の会合を開いてきましたが、「第1次報告」は、「新制度」の詳細部分に「さらに検討」という記述ばかりが目立ち、議論を充分に尽くしたとは言い難い内容です。また、「新制度」は介護保険制度や障害者自立支援制度をモデルにしているといわれていますが、これらの制度は問題が多く、見直しが繰り返されていることについても何らふれられていません。 この特別部会は、保育制度について論議をするにもかかわらず、当事者である保育事業者や利用者(保護者)を抜きにすすめるという異常なものであり、その内容について保護者、保育者をはじめ保育関係者からも大きな反対がありました。全国保育団体連絡会は、こうした声を束ね、関係団体と共同して特別部会の議論に関して反対の意見表明を繰り返してきました。厚労省は関係の深い保育事業者団体である、日本保育協会・全国私立保育園連盟・全国保育協議会(保育3団体)を保育事業者検討会に組織することで合意を得ようとしましたが、ここからも大きな反発があり、「第1次報告」のとりまとめが閣議決定に反して2か月も遅れてしまうという事態を招きました。
保育制度「改革」よりも認可保育所の増設による待機児童解消を
折りしも長引く経済不況によって保育ニーズは急激に拡大しており、待機児童数や保育所入所申込はどの地域でも昨年度を大きく上回っています。こうした時期に、安易に制度を変えれば混乱を招くことは必至です。喫緊の課題は、今まさに保育を必要としている子どもたちの保育保障であり、国と自治体の責任で緊急に保育所整備計画を立て、必要な財政措置をとることこそが求められています。 そのためには、未知数の「新制度」を導入するのではなく、現在23,000か所の保育所に220万人を超える乳幼児を受け入れるまでに到達した現行保育制度を基本にすることが、最も確かな道です。保育の需要増に対応できない現状を生み出した要因は、現行保育制度にあるのではなく、世界的にみても大変貧しい保育・子育て予算(家族政策関連予算のGDP比はOECD諸国中最下位グループに位置する)と、戦後60年以上ほとんど改善されていない最低基準など条件改善の遅れにあります。問われるべきは現行制度ではなく、保育予算を削減し、保育所整備を怠ってきた国の政治姿勢そのものです。 必要なことは、保育所整備を「未来への投資」として位置づけ、十分な財源を確保し、認可保育所の整備をすすめることです。たとえば、年間10万人の受入増を図るためには60人定員の保育所1667か所が必要ですが、1園あたりの建設費を約1億円と見積もっても年間1667億円、3年間で約5000億円あれば足ります。認可化を望んでいる認可外保育施設の認可を促進すれば、さらに少ない予算ですむはずです。 私たちは、以下のように問題が多い「新制度」案を撤回し、現行保育制度のもとでの保育施策の拡充を求めます。
「新制度」では市町村に保育実施責任はありません
「新制度」の最大の問題は、児童福祉法24条にもとづき市町村が直接保育を提供する責任(保育実施責任)がなくなることです。 現行制度は、保育にかかわる諸問題を保育所や保護者任せにすることなく、市町村が保育の実施主体として最終的な責任を負っており、これが保護者の安心と保育所運営の安定につながっています。ところが「新制度」は、市町村の責任が大きく後退するため、保育所と保護者に多くの負担を押しつけることになります。
市町村の仕事は要保育度認定と補助金の支給に限定
「新制度」では、市町村は保護者の申請にもとづいて保育の必要性と量(時間)を判断(要保育認定)し、必要性が認められた子どもについて「公的保育を受けることができる地位」を付与し、保育の公定価格(補助金+利用料)を決め補助金を支給します。 認定を受ければ誰もが保育を受けられるようにみえますが、要保育度認定は単なる「地位」の付与にすぎず、保護者自らが保育所を探して入所の契約をしなければ保育を受けることはできません。保育所を利用しなければ補助金の支給もありません(介護保険では介護認定450万人に対してサービス給付受給者は350万人にすぎません)。認定は受けたものの、保育所不足で保育所に入所できないのも自己責任です。しかし厚生労働省はこのような問題点が明らかにならないよう「例外ない公的保育の保障」などと説明しているのです。 また「新制度」は、保育を実施するのは市町村ではなく保育所になるため、保護者は直接保育所と契約することになります。これは保育を商品として売り買いする契約であり、民法上の私的契約に他なりません。また、契約するかどうかは保育所が決めるので、保育所の事情や都合により入所を断られることもあります。所得の低い家庭の子どもや障害のある子どもなど、最も保育や支援を必要とする子どもが保育から切り捨てられかねません。
保育料の応益負担化は保護者負担増に直結する
現行制度は、その子どもに必要な保育を保障するために保護者の所得によって保育料を決める「応能負担」を原則としていますが、「新制度」では、所得にかかわりなく保育時間(利用時間)に応じた負担 =「応益負担」になります。長時間預ける場合、所得が低い家庭でも負担が大きくなるため、保護者負担が増え、利用したくても利用できなくなる可能性があります。さらに保育料負担とは別に、介護や障害の分野ですでに実施している給食費の自己負担も検討されています。 また、保護者の勤務状況に応じて利用できる保育時間の上限が決められ(週20時間(平日4時間×5日)、週40時間(平日8時間×5日)、週55時間(平日11時間×5日)などが検討されている)、これまで8時間の保育が利用できたパート労働者は、保育所利用が大きく制限されることになります。利用時間に比例した保育料負担が求められると、保護者は保育所利用をギリギリまで抑制しかねず、その結果、登園・降園時刻が日々バラバラになっていくことも容易に予測できます。これでは集団保育はもとより、行事を行うことも難しくなります。子どもの生活は寸断され、保育のあり方まで大きく変質させられてしまいます。 応益負担原則の導入は、補助額を増やせば連動して保育料も上がる仕組みです。保育条件の改善や、労働者の処遇の改善をしようとすると保護者の負担増に直結し、保育の質の向上をはかることは難しくなってしまいます。
市町村と民間保育所の委託関係はなくなり、保育所の負担が増える
これまで民間保育所は、保育の実施に責任を持つ市町村の委託を受けて、市町村にかわって保育を実施していましたが、市町村の保育実施責任がなくなれば、必然的に委託関係もなくなり、保育の委託費として支弁されている保育所運営費の支払いはなくなります。そして入所の決定、保育料の徴収やトラブルの処理まで、保育の実施上の責任はすべて保育所に負わせられます。 「新制度」では保護者に給付される補助金を保育所が代理受領しますが、基本的に利用時間に応じた給付のみで、これまでの保育単価のように定員や施設規模に対応するものではないため、保育所運営が困難になることは必至です。保育料滞納のリスクも保育所に負わされるなど、利用者の立場で良心的な保育をしようとすればするほど、経営が不安定化することになります。 高齢者・障害者(児)施設では、「新制度」のモデルとされる介護保険や障害者自立支援制度がスタートして以降、請求実務などの事務量が大幅に増える一方、大幅な減収となり、経営が悪化し、職員の低賃金化や人手不足など、深刻な事態が起きています。
事業者指定制度の導入が保育の質の低下を招く
保育の供給量を増やすために導入が検討されている事業者の指定制度は、基準さえ満たせば参入も自由、撤退も自由というもので、営利優先の劣悪な企業であっても参入を阻止できません。また、施設が代理受領する補助金には使途制限がないため、企業の保育所等でこれが保育事業以外に流出することを規制できず、保育の質を維持することがより困難になります。都市部では新規参入を規制できないため、施設同士の過当競争が激化する地域が生まれ、事業者の参入が期待できない過疎地では、市町村の保育実施責任がなくるため保育保障は難しくなります。 また、保育所の土地、建物など施設整備費を減価償却費として保育の公定価格(補助金+利用料)に上乗せすることが検討されていますが、これは施設整備に関する公的責任を後退させ、その穴埋めを保育所と保護者に負わせるものです。
市町村責任の後退ですすむ公立保育所民営化と厚労省の官僚支配
市町村の保育実施責任があるからこそ存立してきたといえる公立保育所は、「新制度」によって存在の根拠を失い、公立保育所の廃止・民営化は一気にすすむでしょう。さらに国基準では不十分だとして支出されてきた民間保育所向けの自治体単独補助も、再編・縮小されることが予想されます。 一方、認定基準や指定基準、公定価格や補助内容などの基準はすべて厚労省が決定することになり、厚労省のさじ加減一つで保育のあり方が大きく左右されてしまいます。これは地方自治の拡充に逆行するものです。
本質を隠しても矛盾がいっぱいの「新制度」
「第1次報告」は昨年12月の提案に修正を加えたものですが、修正の内容がいっそう「新制度」の矛盾を際だたせ、問題点を浮き彫りにしています。 市町村が「利用者」に費用の給付義務を負うとしていた部分を「市町村が保育の費用の支払い義務を負う」として、誰に補助金を支払うのかをあいまいにしたり、保育3団体が強く要望する市町村の保育料徴収については「保育料徴収は保育所が行うことを基本」という文言を削除し、具体的な方策(市町村と保育所の役割等)をさらに検討していく、と課題を先送りにしたりしています。しかし、いくら字句を修正しても、厚労省の担当者も市町村と民間保育所の間に保育の委託関係がないことを認めており、市町村の保育料徴収や、保育所に対する費用の支払い義務を明記した「第1次報告」に矛盾があることは明らかです。こうした内容でまとめられた「第1次報告」の正当性と、特別部会の議論のあり方が問われます。 今後、厚労省は制度の詳細についての議論をすすめ、早ければ2011年の児童福祉法改正、2013年の新制度実施を企図しています。しかし、このように「新制度」の問題点をあいまいにしたまま保育制度「改革」がすすめられるとしたら、子どもも保護者も保育所も大きな混乱に巻き込まれることは必至です。 私たちは、今を生きている子どもたちに豊かな保育を保障するために、よりよい保育を求めて実践と運動をすすめていきます。「新制度」による公的保育制度の解体を許さず、国と自治体の責任にもとづく現行保育制度の拡充、待機児童解消、認可保育所建設の大運動を、保育関係者だけでなく、より多くの国民とともに、全国各地で広げていきます。 私たちは、保育制度「改革」にあたり、保育事業者、保護者など当事者の意見を最大限尊重すること、子どもの権利最優先の保育・子育て支援策の実現のために現行保育制度の堅持・拡充、保育・学童保育予算の大幅増額、地方財政の強化、子どもと保護者への充分な配慮などを強く求めるものです。
2009年3月9日 全国保育団体連絡会
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