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【05.01.13】〔見解〕幼保「総合施設」をどう考えるか

 12月24日、中央教育審議会初等教育分科会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の合同の検討会議は、いわゆる幼保「総合施設」に関する基本構想として「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した総合施設について(審議のまとめ)」(以下「まとめ」)を公表しました。
全国保育団体連絡会は、今回の「まとめ」は、(1)これまで保育所・幼稚園がそれぞれで積み重ねてきた実践をもとに議論されてきた幼保一元化=保育一元化の流れに逆行するものであること、(2)待機児解消や子育て支援など、国民の切実な要求に応えるような幻想をふりまきつつ、憲法・児童福祉法に基づいて国と自治体が責任を負う日本の保育制度の「解体」に道を開くものであること、などから容認できません。以下、見解を表明します。

1.
 保育所と幼稚園はこれまで独自の機能と役割をもち、それぞれ地域の要求に応えながら発展してきました。保育所は、「保育に欠ける」すべての乳幼児に福祉と教育を同時に保障するために、(1)自治体の保育実施義務、(2)国が定める最低基準の遵守義務、(3)国と自治体の公費負担義務、を特徴とする公的保育制度をもとに発展してきました。幼稚園も、幼児期からの国民の教育要求を実現する施設として、就園奨励費に代表される国や自治体の補助制度の支えのもと、就学前教育として定着・発展しています。
 これまでの実践研究を通して乳幼児の「保育」という概念は、制度の違いをこえ、長時間保育であろうと短時間保育であろうと、乳児であろうと幼児であろうと、「養護」と「教育」を統一するものとして確立されてきました。そしていま、少子化の進行や子育て困難の広がりなど、保育・子育てをとりまく社会状況が大きく変化するなかで、子育て支援など新たな役割も期待されており、保育所・幼稚園の「保育」は、「養護」と「教育」の統一という概念をさらに発展させることが求められているのです。
 一方で都市部では乳児を中心に待機児童があふれ、この解消が切実な課題となっていますが、保育所の拡充が不十分ななかで認可外保育施設や幼稚園の預かり保育などが安上がりに活用されています。過疎がすすむ町村では、保育所と幼稚園それぞれの定員割れがすすみ、自治体の財政難から既存の施設を維持することが困難になっており、保育所と幼稚園のそれぞれの機能と役割を維持しつつ、これを「一体化」して運営する方向も模索されています。
 こうした状況のもと、乳児保育の拡充、子育て支援の拡充と制度化、過疎地での柔軟な対応など国民の切実なねがいに応えられる施設・施策の量的・質的な拡大が求められています。いまこの時期に幼保の「総合施設」という新しい制度の検討をすすめるのであれば、保育・子育ての実態と現状をふまえ、少なくともこれまですすめられてきた保育所、幼稚園の条件や内容を切り下げることなく、それぞれの制度をさらに発展させるものでなくてはなりません。ところが「まとめ」にはそれらに応える具体的な提案は一切見られないばかりか、逆に基準・条件をあいまいにし、幼保両施設の基準・条件の切り下げの呼び水となるような危険さえはらんでいます。

2.
「総合施設」構想は2003年6月、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(骨太方針第3弾)の「国庫補助負担金整理合理化方針」のなかで「新しい児童育成のための体制の整備」としてその設置が突如提案されました。そもそものねらいは保育所や幼稚園とは異なる新たな制度の枠組みを提示することによって、現行保育水準の大幅な切り下げによる財政削減と、保育・幼児教育を国民の権利としての福祉・教育の枠組みからはずし、営利の対象にしていくこと、すなわちナショナルミニマムとしての保育所・幼稚園の制度の「解体」にあります。それは、規制改革・民間開放推進会議の第一次答申(2004.12.24)が「『総合施設』の施設設備等に関する各種規制の水準については、現行の幼稚園と保育所に関する規制にとらわれるのではなく、どちらか緩い方の水準以下とすることを原則とする」としていることからも明らかです。
 保育・幼児教育関係者によって議論されたはずの「まとめ」は、こうした政府の方針を否定しないばかりか、積極的に追随するものです。

3.
 全国保育団体連絡会は、これまでも「総合施設」構想が国と自治体の責任を定めた保育制度の解体をすすめるものであるという「見解」を発表してきました。公表された「まとめ」を見る限り、「総合施設」の目的や基準が明確に示されていないなかで、保育所でも幼稚園でもない「新たなサービス提供の枠組みの提示」ばかりが強調されており、当初の危惧の正当性を証明しています。以下、「まとめ」の問題点を指摘します。
 第一は、「総合施設」設置の目的の不明確さです。「総合施設」といいながら提案されている内容は既存の幼稚園、保育所で十分対応できるものばかりです。とくに強調されている待機児解消や、子育て支援など、保育・子育て問題の解消には、現状では保育所、幼稚園、その他子どもにかかわる多様な施設・施策の強化・連携が不可欠です。とりわけ待機児童対策については、認可保育所の新設・増設を中心とした保育所整備計画を緊急に立てて予算化することが求められています。来年度より実施される次世代育成支援行動計画はもちろん、子ども・子育て応援プラン(新新エンゼルプラン)などの実施も念頭においた検討が求められます。保育・子育て支援を「総合施設」創設を前提にした議論のみに矮小化し、現行の幼稚園・保育所制度をないがしろにするのではなく、これまでの保育・子育て施策の評価と課題をふまえた保育制度・政策の論議をすすめる必要があります。
 第二は保育内容のとらえ方の後退です。0歳から2歳児については親子登園など親子の利用を基本とし、幼児教育・保育については主として3歳から5歳児のみを対象にする、それも共通の教育・保育時間を4時間程度と位置づけているだけです。0歳から2歳児の集団保育を否定し、教育を位置づけないということは、保育と教育を分断し、保育を教育の下に置くものに他なりません。
 第三は、「総合施設」の施設設備等のあいまいさです。「総合施設」は親の就労とは関係なく、就学前のすべての子どもを利用対象にするとしていますが、これが提案された大きな理由が待機児童対策にあることは明らかです。保育所と同様の利用者を想定するからには、少なくとも現行保育所制度の柱である、児童福祉法24条を基本とし、自治体の保育実施義務、最低基準の遵守義務、公費負担義務を位置づけることが必要不可欠です。
 さらに「総合施設」が、幼稚園・保育所それぞれの機能を併せ持ち、なおかつ既存施設では対応できないニーズに応えるのであれば、機能拡充にふさわしい条件整備が必要になるはずです。ところが職員配置や施設設備に関する条件・基準では、「柔軟な対応が必要である」とするだけで明確な基準は示されていません。給食調理室の設置問題も「子どもの年齢構成や地域の実情に応じた適切な対応が可能となるような弾力的な仕組みを検討する」として、調理室の必置規制廃止を想定しています。親子支援や子育て支援をかかげるのであれば、食育の問題は最も重要な課題であり、調理室の設置なしには考えられません。
 あいまいな条件・基準は、要求が高いにもかかわらず対応が遅れている低年齢児保育等を、現行より基準を切り下げて実施することを容認し、保育の質の低下を招くことになります。
 第四は「総合施設」における公的責任のあいまいさです。現行保育所は入所に関する自治体責任が明確にされていますが、「まとめ」では直接入所方式が望ましく、保育を必要とする「共働きやひとり親家庭」など「配慮が必要な家庭」が排除されないような仕組みの検討を指摘するのみで、自治体の保育実施責任など公的責任は明確にされていません。さらに利用料の設定は利用形態(直接契約)をふまえて各施設で行うとしています。また、財源は利用料だけでなく「社会全体で負担する仕組み」としていくとして、「新たな枠組みにふさわしい費用負担の仕組みの検討」という幼稚園とも保育所とも異なる財政措置のあり方を示唆しています。「社会全体で負担する」という表現は聞こえがいいものですが、国・自治体の財政負担の責任をあいまいにするものです。また設置主体・管理運営方式についても「可能な限り弾力的なものにする」としていますが、これも自治体の責任をあいまいにするものであり、現行保育制度の基本である保育における国・自治体の責任を大きく後退させるものといわざるをえません。

4.
 以上のように設置の目的、基準、公的責任があいまいな「総合施設」の導入は、これまで積み上げてきた自治体の保育水準を切り崩し、公的保育の「解体」に道を開くものです。
 政府は2006年度からの本格実施をめざし、2005年度予算において新たに創設された「次世代育成支援対策交付金」の対象事業に「総合施設」のモデル事業を組み込みました。しかしながら、これまでみたように非常にあいまいな方針のままで自治体や施設まかせのモデル事業を実施することは国の責任放棄といわざるをえません。
 今後、地域において「幼保の一体的運営」などさまざまな形態による事業がすすむことがあるにしても、それらを自治体や施設まかせにするのではなく、子どもの権利保障の立場から財政負担をはじめとする国の責任を明確にしていくことが不可欠です。そのうえで、(1)児童福祉法に基づく自治体の保育実施責任の追求など公的責任を確保し、(2)保育所、幼稚園における自治体の現行保育水準を低下させず諸条件を整備していくこと、が必要です。
 進行する少子化と高まる保育要求のもとで、保育行政のあり方が問われています。いま、必要なのは、子どもと働く父母の立場に立った待機児童対策であり、児童福祉施設最低基準の抜本的改善、そしてすべての子どもの健やかな育ちを保障する子育て支援事業の拡充、これらを保障する保育・子育て予算の大幅増額と施策の拡充です。今回の「総合施設」に関する議論及び「まとめ」は、すべての乳幼児が必要とする保育・教育を等しく保障してほしいという国民のねがう「幼保一元化」とは全く異なるものであり、規制緩和による財政削減、教育内容の限定を求めるなど、これまでの議論や実践研究の成果を大きく後退させるものであることを再度強調しておきます。
 私たちは、保育のナショナルミニマムをなし崩しにする「総合施設」の制度化に反対です。今後、政府や自治体に対し、保育制度・政策にかかわる検討にあたっては、子どもの権利条約の批准国として必要な議論を深めること、経済効率優先でなく、幼い子どもに最善を保障する保育・子育て政策への転換を強く求めていきます。そして、ゆきとどいた保育・教育を求める人たちと手を結び、子どもの権利が最大限尊重される保育・子育ての公的保障のいっそうの拡充を求める運動を大きく広げていくことを決意します。

2005年1月13日
全国保育団体連絡会


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